煉獄日記

目指せ天国。

犬しか愛せないわけではない

私は夫のことをゴールデンレトリバーだと思っている。
人懐こくて、だいたい誰にでもしっぽをぶんぶんしている、もふもふのあれ。かわいい。夫、実は人間だから、あんまりもふもふではないけど。

それゆえに、私と夫の関係は恋愛関係とは言い難い何かである。
確かにこの一年半くらいのごたごたの中で、夫がゴールデンレトリバーよりは人間のように見えて恋愛と言っても差し支えないくらいの感情を抱いていたことはある。ただ、その感情が前面に出てきたことはない。それは断言できる。

そういう相手だと思ったから、結婚したのだ。

 

家族憲法 第七条 第一項

婚外の恋愛や性行為については介入、禁止をしない。但し、誰かと同居あるいは結婚を望む場合には相談し合意を得る。

 

おそらく、私たちの家族憲法の中でもっとも周囲から理解されにくいのがこの条項。簡単に言ってしまえば、不倫OK条項だ。

これは、周囲の理解を得がたい一方で、周囲の理解無しには成立しない条項でもある。

モノガミー(一夫一婦制)への抵抗として定めたこの条項は、それが問題になるとき必然的に第三者を巻き込むことになる。それにもし私たちがこの家族憲法の存在を明かしていなければ、その第三者を不用意に危険にさらすことにもつながる。
もちろん私か夫が第三者と関係を持ったときに、たとえその第三者が結婚をしていなかったとしても、何かしらのリスクが付きまとうことは事実だ。それでも、そのリスクも承知の上で、私たちはこの条項を家族憲法に入れた。

 

この一年、結婚の報告と同時に私はなるべくたくさんの人にこの不倫OK条項についても伝えてきた。色んな反応があった。応援してくれる人も、眉をひそめる人もいた。
「なぜ?」と不思議そうな顔をされるたび、十分とは言い難い説明をしてきた。

性的に遊びまわりたいわけじゃない。
もちろん「お前だけでは不十分だ」などと言いたいわけでもない。

むしろ、そういう言葉や思考を生み出してしまう「恋愛」というものを、二人の人間(異性間でも同性間でも)が対になっていることが至高の関係性だとする考えを、世にはびこるその恋愛至上主義を、この結婚の核心部から排除したかった。

 

私は、夫と、「家族」になりたかった。

 

あなたがあなたの親や子や姉妹を自身の家族とみとめるとき、そこに恋愛は必要ない。オブラートを全部はがして言うならば、セックスしなくたってあなたはその人たちを自身の家族と認めている。むしろその関係性の中では性的な接触は禁忌とされる。

夫婦という関係だけが、結婚という儀式だけが、ふたりの人間が家族として恋愛や性で結びつくことを肯定し、そこに特権的地位を与える。

そのことがどうしてもどうしても許せない。許せないのだ。許せるわけがない。だって、その欠陥だらけの常識のせいで、これまでどれだけ苦しい思いをしたと思ってるんだ。

そういう恋愛と結婚の結びつきに対する批判は昔「結婚をしたいのかもしれない」とタイトルを付けた連続記事で散々書いたからここでは割愛するけれど、とにかく、初めて手に入れられそうな私の「家族」をそんなものに壊されてたまるかと思った。

 

少しだけ背景を話せば、夫とは15年くらい友達だった。10年ほど前、物理的に近くにいたからよく会っていた時期とお互い色々しんどい時とが重なっていて、とにかくしんどかった。そのしんどくてしんどくてどうしようもない期間を親しい友人として過ごして以降、私の夫に対する一番の願いはいつだって「幸せで元気でいてくれ」だった。

さすがゴールデンレトリバーはよくモテるので、色んな女の子と付き合ったりしばらくは結婚していたりしたけど、その間も私の願いは「幸せで元気でいてくれ」だったし、たまに連絡を取っては「幸せそうで元気そうでよかった」と思ったり「元気じゃなさそうで心配だ」と思っていた。その願いは、私自身の進路とか人間関係とかとは全く切り離されたところで絶えず続いたもので、自分の一部みたいな当たり前の願いだった。

悟りだか祈りだかしらんけど、これが大切な何かだということはわかったし、結婚によってそれが壊されるなんて絶対に絶対に避けたかった。夫婦じゃなくてもいいから、家族になりたいと思った。

そこではっきりと姿を見せた敵が、モノガミー。こいつを受け入れてしまったら、私たちのこれまでの15年間が、互いを漠然と大事に思い続けた日々が、きっと容易に飲み込まれて「恋愛」のラベルを貼られてしまう。

 

恋愛があってもなくても成立する家族。
「2人きり」にしばられない網目のように広がる家族。
性にも法にもよらない「大切な人(たち)」と築いていく家族。

それを実現するために必要だったのが、「不倫OK」としか言いようのない上の条項だった。「但し、」の後は、お金とかそれこそ法律とか面倒だから相談してね、というためにくっついてるおまけ。家族でいること。それが一番の目標。

 

つまり、だから、別に不倫してもしなくてもいいんだけど、ゴールデンレトリバー(基本モテる、社交的)は毎日楽しそうに料理と勉強ばかりしてるし、私は具合悪くて外出する元気ないしそもそも社交性ゼロだし、不倫OK条項がなんだか宙に浮いたままになりそうだけど、、、

でも、でも、これをこうして宣言することが、まずは初めの一歩かな。

最近はInstagramにも夢中なゴールデンレトリバー

大きな肉を買って喜ぶゴールデンレトリバー

 

まあ、私は、、、彼女ほしいですけど。。。