煉獄日記

目指せ天国。

那覇の青山

ひと月ほど前、「洋服の青山」で人生初のメンズスーツを買った。とても良い買い物だった。

昨日その経験を友人(というか元彼)に話したら「それが本当なら、良かったね」と返された。がっかりして、呆れて、腹が立った。

「それが本当なら」?

「それが本当なら」と言われる程に見えない世界の話なのかもしれない。マイクロアグレッションって呼ばれるくらい小さなことだから、「それが本当なら」と言うことでそれを当事者たちの「気のせい」にしてしまいたいのかもしれない。

「それが本当なら」?

少なくとも、私にとっては、紛れもなく「本当」の経験だったから話したのよ。

友人(というよりは元彼)には、「それが本当なら」という枕詞が必要なほど私の話は本当には聞こえなかったようだけど、私にとってはものすごく本当でものすごく大事な話なので、元彼(今は友人のはず)を説得する代わりに、誰かが幸せになるための小さな情報源としてブログを書く。

 

私は体型的には女性、身長は150cm弱、ここ一年ほどのBMIは普通体重の範囲内。つまりとても小さい。私より背の低い大人には滅多に会わない。

そんな私でもフルオーダーせずにメンズスーツを買えたんです。YA1のサイズで、お直しはしたけどそれも通常のお直しの範囲内。まずそれは、その時点ですごいこと。

今回は礼服が必要だったので選択肢はそんなに多くはなかったけど、それでも選択肢がゼロじゃなかったというだけで感動もの。おそらく礼服じゃないスーツならもう少し色々選べるはず。

女性が着られるメンズスーツということなら、keuzesファブリックレインボーなどでフルオーダーするのが、おそらく質の良いものを手に入れる一番良い手段。私も可能ならそういうところで仕立てたかったんだけど、今回は費用はともかく時間がなかった。残念。

洋服の青山には小さいサイズもあると噂には聞いていたけど、ウェブサイトで見てもいまいちわからず。それでも諦めがつかなくて店舗に行ってみたら、店員さんがYA1までサイズがあるスーツをお薦めしてくれた。

最初に店舗に行ってから購入までは約2週間で、流れは次のような感じ。

予約も何もせずに行った初回は、店舗にある最小サイズ(YA3)をとりあえず着てみて「大きいねー」ってなる。当たり前じゃ。それで、小さいサイズの取り寄せをお願いして、約1週間後に取り寄せ品到着の知らせを受けて再び店舗へ。ここでYA1が身体にフィットすることを確認して、その上でお直しの長さを決める。さらに1週間ほど待って、お直しの終わった完成品スーツを受け取った。

今回は必要なかった&見つからなかった(そんな真剣に探さなかった)ので靴は揃えてないけれど、ネクタイとシャツも洋服の青山でついでに購入し、靴下は自分のサイズに合う(=レディースの)黒いやつをUNIQLOで買った。あとこのスーツを着るときはいわゆるナベシャツを着ているので、それも数千円で購入(別にナベシャツは必須ではない)。スーツ自体が約6万円、他の色々を揃えても7万弱で済んだ。安い買い物ではないけれど、礼服を一式揃えたんだからまあこのくらいですかね、という気持ち。

もちろんスーツというモノとして「良い買い物ができた」という気持ちはある。だって私でも着れるメンズスーツが手に入ったんだもの!でもそれ以上に、洋服の青山での経験が素晴らしいものだった。「本当に」素晴らしい経験だったので、その話でもちょっとしましょうね。「それが本当なら」って言いたくなりそうな人はお呼びでないのでここで引き返してね、バイバイ。

 

着るならメンズの服がいい。そう思い始めたのはもう何年も前のことだけど、そうは言いつつも妥協に妥協を重ねてレディースの服を着てきた。だって、私の体型は紛れもなく女性のそれだし、何より身長が150cmしかない。どうにかこうにか「これなら着ても泣きたくならない」という服をレディースコーナーで必死の思いで探す日々だった。

でも、1年前にUNIQLOの前で服を買うのが嫌すぎて過呼吸を起こしかけてから、レディースの服を買うのをほぼやめた。

それをやめられたのは夫の存在が大きい。上のような理由で服を買うことが大嫌いなまま育ってきた私と違い、夫は昔からおしゃれをするのが好きな人。私よりメンズ服だけでなく服全般に詳しい。それに店員さんと会話をすることにも全く抵抗がない。すげえなその社交性。まじでゴールデンレトリバー。わん。

でも何よりすごいのは、メンズ服を着たいと言い出す私を全面サポートしてくれるところだと思う。

先日、結婚が一年続きそうだね記念ということで琉装をしてカメラマンさんに写真を撮ってもらった。そのときに「正装するなら男装じゃなきゃ絶対に嫌だ」と私が駄々をこねると、というか、駄々をこねる必要もなく私がその希望を述べた時点で「いいね、そうしよ!」と明るく了解してもらえた。そろそろ夫のおしりからふさふさゴールデンの尻尾が生えてきそう。

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そんな感じの夫なので、私はここぞとばかりにメンズ服売り場についてきてもらい、そのおかげで最近は人生で初めて服を買うのが楽しいなって思い始めている。もちろん150㎝の人間がメンズ服を探すのが難しいことに変わりはない。だからボーイズサイズにも手を出した。メンズとボーイズとユニセックスを行ったり来たりしながら、この半年ほどで随分服を買った。買うのも着るのも楽しい。最高じゃん。

 

それでも適当に着こなして問題ないカジュアルな服とは違って、スーツ探しはそれなりに難航した。

ゴールデンレトリバー夫に一緒に来てもらってデパートのメンズスーツ売り場にも行ったけど、当然わたしに合うサイズのスーツはない。でもサイズがないことより悲しかったのは、店員さんたちの視線。

店員さんとのやり取りを夫に丸投げしているのも悪いんだけど、夫が「着るのこの人なんですけど」と伝えた時点で店員さんの目が泳ぐ。

不可解な顔から苦笑いに近い顔、もちろん皆さん接客のプロだからそんな表情は0.5秒もしないうちに消してくれるのだけど、だからといってそれが見えないわけじゃない。その後も丁寧ではあるけれどあきらめムードの接客を受けて「まあこのサイズは難しいですよね」とへこへこしながら店を出る。

スーツが必要になる法事の日が近づいてくるにつれて、「やっぱり正装は女装するしかないのかな」と憂鬱な気持ちになりつつも、覚悟を決め始めてた。

 

そんな時に思い出したのが、前に誰かのブログで読んだ洋服の青山の話。

サイズがあったことはもちろん嬉しい。でも何より嬉しかったのは、夫と二人組でいてもメンズスーツを探しているのが私であることを、とてもとても自然に受けとめて話を聞いてもらえたこと。

洋服の青山でいろいろと助けてくれた店員さんは、言葉の濁りもなければ目が泳ぐこともなく、もちろん「レディースならあります」といった案内をすることもなかった。とても自然に、メンズスーツ(礼服)を探している客として私に対応してくれた。

それはもちろん、ほかの店の店員さんがあからさまな差別をしたとか、洋服の青山の店員さんだけが超好待遇だったとかそういうことじゃなく、まさに「それが本当なら」と周りの人なら言ってしまいそうになるかもしれない微々たる違いかもしれない。でも、あの店員さんの対応がとても「自然だった」ことは、小さな不自然が散見する対応をいくつも見てきたからわかるんだよ。少なくとも、私はあの店員さんが当たり前に私にメンズスーツを売ってくれたことが、私自身がそう感じられたことが、とても嬉しかった。

 

まだ自分でネクタイ締められないので一人で着られない正装ではあるけれど、黒いメンズスーツを手に入れてなんだか強くなった気がする。
これでもう冠婚葬祭も怖くない!(たぶん)