『ちょっと思い出しただけ』という映画を観た。
池松壮亮と伊藤沙莉、主演2人の演技がとても良かった。
観た後にひとりになりたくなる映画と聴いてたから夫の外出中にひとりで観た。
ひとりになりたいとは特に思わなかったけど、何も思い出しもしなかった。
大人になってからの誕生日の思い出はそれなりに色々あって、だいたいは楽しかった思い出で、19歳の誕生日には泣きたくなるような経験をしたこともある。誕生日の記憶の中に、恋人や友人が中心の記憶が大半を占めるようなったことは、私も大人になったな、って気持ちになる。自分で選んだ身近な人と、楽しい時間を過ごす日だ。
この間、初めて泥酔するまで酒を飲んだ。
うちの小さなバスルームに2時間ほどかがみこんだまま、その日の夕飯も30分で無理矢理1本飲み切ったワインも全部吐いた。もう長いこと結構強い嘔吐恐怖を抱えているのに、まるで不可抗力みたいに吐き続ける自分がばかみたいで笑えた。
トイレにつっぷして吐きながら、確か泣いていた気がする。よく覚えてないけど。
でも、記憶の中では泣いていた。くだらなくて、あまりに簡単で。
酒で自分を壊す簡単さを、小さなころから痛いほど学んできた。でもそれが同時に周りの人をどれだけ傷つけるかも、もっともっと痛いほど学んできた。だから酒を飲まない大人になった。
なんで突然ワイン1本空けちゃったのか自分でもわからない。味わいたいわけじゃなかった。なんでもいいから酔いつぶれて自分を壊してみたかった。
で、見事につぶれたわけだ。
手足の感覚もぼんやりしてうまく立てないし、思考力なんてぽよぽよだし、自分の体がアルコールを吐き出すことで必死に生きようとしている姿に「おー、がんばって生きてんじゃん」と思った。こんなに簡単に脳みそを壊せるものが手元にあれば、そりゃあ飲んじゃうよね。
酒に負け続けてる人生だけど、酒に酔いつぶれることで初めてちょっとだけ酒に勝った気がしたよ。不健全。
『ちょっと思い出しただけ』を観ても、全然何も思い出さなかった。
これを観てひとりになりたくなる人は、きっと「ちょっと思い出す」何かがある人なんだろうな。今ではない過去のいつかを、ちょっと思い出す瞬間を持っている人。
私は、何も思い出さなかった。
でも、もしもこの映画を十何年後かに観たら、思い出すのはハワイで暮らし始めてからのこの数年間、特にこの1年半くらいのことかもしれないな、と思った。
夫が帰ってきた。
おかえりなさい、おやすみなさい。
私はまだまだ、酒に勝てないまま生きていく。